何も言わなくても伝わるもの『セックス・エデュケーション』第3話

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もし中絶した友人を迎えに行くことがあればサンドイッチと花束を持っていくのが良い、かもしれない。

オーティス「サンドイッチは?」
メイヴ「変な人ね」
オーティス「僕は序の口。ママは飛んでる。セックスの話についてばかり。"ヨニと私"というワークショップを開いてる。ヨニは女陰だ。ママはいつも変なことを聞いてくる。なんでも平気なんだ。イカれてる」
メイヴ「私のママは麻薬常用者。やめる気はあるけど成功しない。しばらく会ってない。兄がいるわ。面白い奴よ。でも落ち着いてなくてあてにならない」
オーティス「僕は」
メイヴ「気の毒に思わないで」
オーティス「わかった」
メイブ「その花は私に?」
オーティス「ああ。でも今はそんな時じゃない」
メイブ「いいじゃない好きよ。"ハッピー中絶"とは書いてない」

セックスセラピストの母を持つ童貞・オーティスと学校イチのヤリマン・メイヴがはじめたセックス相談クリニックで様々な生徒の性の悩みを解決してきた二人でさえ、中絶の後に語れることは何もない。できるのは他愛もない身の上話だけ。別に二人は付き合っているわけではないし、性的な関係があるわけでもない。友人ではあるかもしれないがむしろ仕事仲間の方がこの時点では適切だ。様々な偶然が重なることでオーティスは手術後のメイヴを迎えに行くことになったわけだが、むしろ何も言わないからこそ傍にいることが許されたのだと思う。メイヴの本当とも嘘ともつかないジョークがそれを暗示する。

多くの人のハイスクールライフがそうであると思うが、今の少し大人になった自分からするとしょうもないことで悩んでいたことは誰にでもあるはずだ。僕はむっつりだったけど恋愛は弱かったのでオーティスのように友だちと馬鹿なことを話したりゲームばかりしていたが、恋愛をしていた子たちも同じように恋愛のしょうもないことで悩んでいたのだろう。今になってそう思う。この『セックス・エデュケーション』で描かれるようなフェラチオや手コキのような実技的なことで悩んでいたかはわからないけど、どちらにしても今となっては笑い草でしかないはず。ひょっとしたらメイブのように笑ってはいられない生活を送っていた人もいるかもしれないが。

童貞なのに見様見真似のセックスセラピーを成功させるオーティスのように、話して悩みが解決するならそれに越したことはない。だけどそうではない時に核心については何も喋らず、何の関係もない話で相手に寄り添うことができる。それに冗談を返すことができる。そんな他愛のない会話劇をドラマというメディアで、しかもコメディとして見たのはそれこそ『木更津キャッツアイ』とか『フレンズ』以来だったような気がしてる。

 

あ、基本的には友人エリックと学校の集会で

エリック「元気か?」
オーティス「ひどいことが起こった」
エリック「ゼルダをセーブし忘れた?」
オーティス「セックスの夢を見た。メイヴと」
エリック「(大声で)やったぞ!」
(全員の視線がエリックに集中する)

みたいな騒動が次々に起きるお馬鹿なNetflix発のハイスクールコメディです。コメディだからこそ到達できる領域があることを思い出させてくれる作品だと思う。あとエリックをはじめとしてモブまでみんな超おしゃれ。どこを切り取っても最高なのね。

見るのが勿体なくてのんびり観ていたら、勧めたチャイさんがあっという間に抜き去っていきました。チャイさん、俺ようやく3話観終わったよ。今のところオールタイムベストです。

 

ぴっち(@pitti2210

2話目にして脇役がガチでやり合う『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!』

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どうしよう?このドラマの感想を書いたところで絶対僕の周りの人は見ないと思うんだけど、あのね、2話目おもしろかったの。だって観る?銀行ドラマ。『半沢直樹』ほど作り込んでいるわけではないのだけど、でもよく見てみると主演の真木よう子以外だと寺脇康文塚本高史三宅弘城片桐はいり矢島健一柳葉敏郎古谷一行といった方々が脇を固めるというか、どうせ後半まで何もしないんでしょ?真木よう子といった台東支店の人たちとは絡むことなく、後半で徐々に動かす『ドクターX』的黒幕なんでしょどうせ?とか思ってたら

2話目で一気にぞろぞろ出てきました!!

2話目のゲストが里見浩太朗というまさかの水戸黄門様だったんだけど、それがどうでもよくなるくらい

寺脇康文VS相島一之

古谷一行VS柳葉敏郎

が火花を散らしていたのです。ギバちゃん、どう見ても『半沢直樹』の香川照之そのままで序盤は何もしないで汚い手使って失敗して悔しがってばかりだと思ってたら、いきなり火花散らしてやんの。燃える!もちろん真木よう子が主人公で活躍の場がないわけではないけど、もうなんかそれがどうでも良くなるくらい寺脇康文古谷一行!ギバちゃん!そして矢島健一様!!あなたを待っていた!!!

そんな気持ちにさせられるのです。まるで主人公以外が戦況を左右する『ONE PIECE』マリンフォード編のシャンクスように。今から第3話見ますね。

(追記)

3話は2話っぽかったです。菅原大吉が良かったけど、でも2話っぽかった。

 

ぴっち(@pitti2210

 

隠れオタクとしての苦しみを乗り越える『トクサツガガガ』

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3話まで観た。原作は未読。タイムラインで評判になっていたので気になって観たのだが今のところ掴みあぐねている。正直、つまらないと断定したい自分もいるのだが、2、3話と続けて観てしまい徐々にこの作品にやられている気もする。

主人公の叶(かの)は商社務めのOLで自分が特撮オタクであることを隠して生きている。20代の女子の特撮趣味が世間から許容される認識を持っておらず、同僚や母親には自らの趣味を晒すことなく生きている。一方で仲間と出会い、特撮について話すことの楽しさに目覚め始めている。特撮オタクであることが露見しそうな時、瞬時に脳内の特撮のキャラクターからの教えを受け取りピンチを脱出するのが毎回の山場だ。

自分は2話で30代の特撮オタク役の倉科カナ(好き)が出てきてから一気に楽しくなった。というのも1話の時点では叶は隠れキリシタンにしか見えず、ひたすら生きるのがつらいようにしか見えなかったからだ。ところが2、3話で倉科カナ、塾に通うダミアンこと寺田心、任侠さんことカミナリのまなぶくんが理解者として登場してから一気に楽になった。もちろんまだ主たる敵(世間、同僚、母親)は残されているのだが、少なくても叶がつらいだけの状態は脱したのでわりと安心して観ていられる。

それにしてもいまだに特撮オタクはここまで迫害されているのだろうか?というのも特撮、アイドル、アニメあたりがなんとなく立場が弱い印象がある一方で、SNSが普及した昨今においては彼らの洞察力を評価する動きもある。原作の連載開始が2014年だからまあギリギリそういう時代だったのかな?と思う。また自分は女でも特撮オタクでもないので叶の苦しみは理解できないのかな?とも。

しかし、ダミアンが通塾時に特撮のごっこ遊びを組み込むことで嫌な授業を乗り越えようとする姿はとても感動的で、この物語がニッチな題材に特化したものではなくより普遍的なものとして作らえていることがわかる。おそらく今後は自分の理想を押し付ける母親との対決も用意されていると思うので、より共感しやすい構造になるはずだ。

ところでこのドラマの倉科カナが少し老けて見えるのは敢えてなのでしょうか?確か31歳のはずだし役柄も30代のはずなのに40代の貫禄を感じるんですけど!ドラマ内ドラマだと60代の迫力があるんですけど!とはいえむしろどんどん好きになっているんですけど!

 

ぴっち(@pitti2210

今回は一味違うかもしれない 遊川和彦『ハケン占い師アタル』第1話

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みなさん、どうでしょうか。まだ第1話しか観てないけど、自分は結構いいなと思って観てるんですけど。アタルを演じる杉咲花は元々この作品じゃなくても二面性を持つ役が多い俳優ではあるけれど、ここでの親しみやすさと冷酷さと一瞬で切り替わる感じは観ていて飽きないし、マチルダみたいなビジュアルも個人的にはキュートでツボです。

評判がいいかって言うとわからないし、いや確かに、これまでの彼の作品と比べて同じ、過去をなぞっていると言われたらそうなのかもしれない。現代の労働問題を扱ってはいるけれども、例えば小澤征悦の演じるパワハラ上司なんてあまりにもステレオタイプな描かれ方で、不快感を感じる人もいそう。アタルのキャラクターだって、『女王の教室』から脈々と描き続けられてきた"スーパーキャラクター"*1そのもので進化がない。志田未来が演じる神田和実*2だって、キャラクターのリビルドだと言えば聞こえはいいけど、使いまわしていると言われたらそうなのかもしれない。

女王の教室』の時だってそうだけど、遊川和彦の作品はいつも賛否両論のものが多くて、自分も彼のその過激さや過剰さから観るのを避けてきた作品もある。ただ、遊川和彦がそうやって過剰に繰り返し同じものを描いてきた作家だからこそ強度を持っているのも確か。

今まで遊川和彦はひたすら愛の話ばかり書いてきたけれど、それは過剰な絶望とともにあった。『女王の教室』の阿久津真矢(天海祐希)は最終回のラストまで微笑むこともしなかったし、『家政婦のミタ』は絶対的に君臨する三田(松嶋菜々子)とどう心を通わせるかが課題だった。最終回、主人公(柴咲コウ)が襲われて死亡するという『◯◯妻』だってある。『純と愛』では主人公(夏菜)の父(武田鉄矢)は死に、母(森下愛子)はアルツハイマーになり、経営していたホテルは燃えて旦那(風間俊介)は植物人間になる。そしてそのままラストを迎える。今まで彼が愛を描くには、同時に多くの障害が必要とされてきたのだ。

前作の『過保護のカホコ』もそうだったけど、この『アタル』が過去の遊川作品と大きく違うのは、初めから愛を肯定していること。遊川は『純と愛』でも超能力を話に用いたけど、それは『他人の醜い感情を知ってしまう』絶望の象徴としての描き方だった。けれど、今回のアタルはこの力で、和実が自分自身を愛することを肯定してみせた。それも1話から。アタルは二面性を持つヒロインだが、言ってみればその二面性はかつての和美の前に君臨した阿久津真矢のような冷徹さと、最終回の笑顔の真矢や『過保護のカホコ*3のカホコ(高畑充希)のような優しさの二面性、そんなふうに見える。ここへ来て絶望や障害と並ぶ優しさを遊川が1話から描いたこと、そのことに私はなんだか気持ちが高まってしまうのです。

かつて描いてきたものをアップデートさせながら何度も同じ大きなテーマに挑んでいく遊川和彦。これが『純と愛』『◯◯妻』のような過剰な絶望になってしまうか、『過保護のカホコ』のようなユートピア的世界になっていくのかはまだわからないけれど、今回はどうやって愛に挑んでいくのか、ぜひ観てみてはいかがでしょうか。今から第2話を観まーす。

 

チャイルドロック@yama51aqua) 

*1:漫画のキャラクターのような超人的なキャラクター。遊川はスーパーキャラクターと呼んでいる。

*2:女王の教室志田未来が演じた役は神田和"美"。志田未来は和美が大人になった姿を、というイメージで和実を演じているらしい。

*3:カホコには逆にユートピアに寄り過ぎのように感じた。

深川麻衣が超いい『日本ボロ宿紀行』

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またテレ東?と言われそうだけどむしろ書いている本人が一番驚いてるよ。いや確かに近年のテレ東は『孤独のグルメ』だけじゃなく『100万円の女たち』といった良質なドラマを提供してきたわけだけど、まさかこの『日本ボロ宿紀行』がここまでいいとは。完全に想定外。

とはいえ好みはあると思う。ある種のフェチズムの極北とも言えるボロ宿に対してドン引いてしまう人はやはりお呼びではない。食事の提供もままならないような娯楽室の自販機メシにテンションが上がらないこのドラマにおける高橋和也のような普通の人もやはりお呼びではない。いや、俺も実際に「ここに泊まれ」と言われたら「いやいやいやいや……」と高橋和也とまったく同じリアクションを取ってしまうこと間違いなしだけど、幸いなことに画面のこちら側にボロ宿の匂いは伝わってこないわけで、テンションがバク上がりしている深川麻衣とともにこのボロ宿を楽しむことができるのである。

そうなの!このドラマ、深川麻衣がめっちゃ良いの!

どう見てもテンションがだだ下がりするようなボロ宿で廃墟愛ならぬボロ宿愛を発揮し、ダメ演歌歌手高橋和也のケツを蹴り上げる様はまさに女神。惚れた……。演技なのはわかってるけど、一緒に暮らして結婚してマジ喧嘩するところまでは妄想した(幸せだった)。それにしてもデニムが似合いすぎるので2019年ベストジーニスト賞を差し上げます。おめでとうございます!

いまさら知ったのですがこの人、元乃木坂の人なのですね。はじめて乃木坂に興味を持ちました(遅い)。

監督はNetflix『100万円の女たち』『野武士のグルメ』の藤井道人。映像がやたらと良いのはそういうことか!というわけで私のオールタイムドラマベストテン確定の『100万円の女たち』の方ならまったく心配する必要ないわけで今クール全録確定しました。ひゃっほー!

 

ぴっち(@pitti2210